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前橋地方裁判所 昭和36年(家イ)66号 審判 1961年11月14日

国籍 アメリカ 住所 群馬県

申立人 マツエ・ウイリアムス(仮名)

(本籍 東京都 住所 申立人に同じ)

相手方 平山実(仮名)

主文

申立人と相手方との間に母子関係の存在することを確認する。

理由

申立人は、主文同旨の調停並びに審判を求め、事件の実情としては、相手方は申立人が分娩した非嫡出子であるが、戸籍上は申立人の姉夫婦平山伸吉、文子の長男として出生届をしてもらつた。申立人は相手方が小学二年の頃現在の夫ジョージ・ケント・ウイリアムスと婚姻したが、今回夫と共に帰米するに当り、申立人の実子である相手方も同伴することにつき夫の承諾を得たので、申立人と相手方との親子関係を戸籍上も事実に合致させたく申立に及んだ次第です、というのにある。

前橋家庭裁判所調停委員会は本件について調停を試みたところ、昭和三十六年九月十四日の調停期日に、当事者間に主文同旨の合意ができ、調停は成立した。そうして、前記事実関係についても当事者間に争がない。

よつて、当裁判所は一件記録、および調査官の調査の結果に、取り出しにかかる当庁昭和三六年(家)第二三四号後見人選任事件記録、昭和三六年(家)第三二三号養子縁組事件記録を綜合すると、次のような事実が認められる。即ち、申立人は大正十五年八月二十五日亡坂爪啓治(本籍群馬県佐波郡宮郷村大字連取○○○○番地の○)その妻さたの間に四女として出生したが、昭和二十二年頃伊勢崎市内で織物業を営んでいた石山某と知り合つて恋愛関係に入り、姙娠したが、父母の反対等のため正式に結婚をすることができず、申立人の父母の当時の住居であつた前記本籍地で昭和二十三年一月二十八日助産婦大塚きみの助産によつて男子を分娩した。この出生児が相手方実であつた。申立人の父母は申立人の将来を考え、その住居屋敷内に疎開して来ていた長女(申立人の姉)文子とその夫平山伸吉に依頼し、相手方を同人ら夫婦の間に出生した子として出生届出手続をしてもらつた。それで、相手方は本籍東京都台東区浅草千束町二丁目○○○番地筆頭者平山伸吉の戸籍に、父平山伸吉、母文子の長男として登載された。その後申立人と石山某とは交際を絶つに至り、相手方は祖父母のもとで養育された。相手方の戸籍上の母文子は昭和二十九年七月三日死亡し、戸籍上の父伸吉も昭和三十四年三月三十一日死亡した。申立人は昭和三十年頃から当時日本駐留軍人として勤務中のジョージ・ケント・ウイリアムスと内縁の夫婦となつたが、同年六月八日婚姻届出をした。そうして、同年七月には夫の同意を得て、神奈川県大和町の当時の申立人らの住居に相手方を引き取つて同居した。申立人ら夫婦は昭和三十三年一月に一時帰米したので、相手方は再び祖父母のもとで養育されることになつたが、申立人は右帰米中一九六〇年一月二十五日自ら志望して米国の市民権を取得した。申立人の夫は現在沖繩に在勤しているが、明年中には帰米の予定であり、その際には申立人はもちろん、相手方をも同行の予定であるところ、相手方の渡航には、申立人と相手方との間の親子関係を戸籍上明確にしておく必要に迫られている。ところで、前認定のように、申立人は既に米国の国籍を取得し、かつ、それが申立人の志望によるものであつたから、国籍法第八条により申立人は日本国籍を失つている。したがつて、本件は米国の国籍を有する申立人と、日本の国籍を有する相手方との間の婚外母子関係の発生に関する事件であり、それには法例第一八条第一項の類推により、母親である申立人、および子である相手方について、ともに相手方の出生当時の本国法である我国の法律を適用することとなる。そうすると、前認定の事実によれば、申立人は相手方の生母であり、相手方との間に親子関係の存在すること明らかであつて、前記当事者間に成立した合意は真実に合致する。よつて、当裁判所は調停委員河野孝、同荒木文子の意見を聴き、家事審判法第二三条により主文のように審判する。

(家事審判官 毛利恒夫)

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